何度もえずいて涙まみれになり、過呼吸を起こして撮影が中断したときのこと【神野藍】連載「私をほどく」第5回
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第5回
【過呼吸を引き起こして、一度撮影が止まったとき】
今でも目をつぶれば簡単に思い出すことができる。喉の奥まで物体を突っ込まれて、苦しくて何度もえずいて唾液と涙まみれになったこと。だんだんうまく息が出来なくなって、目の前が真っ白になったこと。物体が取り払われた後もそのまま過呼吸を引き起こして、そこで一度撮影が止まったこと。私なりの限界を振り絞ったとしても、口には出されないものの「ああもう少しで良い画が撮れたのに」という雰囲気が一瞬でも流れたこと。全部、ついさっき起きたことのように感じてしまう。そんなことを思い出すと、背筋に冷たさを感じ、身体の真ん中あたりがぎゅっと掴まれる感覚に陥る。
月日がいくら経ったとしても、私が自覚している以上に奥底に抱え込んでしまった淀みは深く影を落として、私の中から綺麗に消え去ってはくれない。カットがかかった瞬間にフィクションだから、演技だから、そんな風に片づけられたらどんなに楽だろうか。頭の中では「仕事だから」と割り切れているはずなのに、未だに精神的な部分はただれたままで、じりじりと焼けるように蝕まれる感覚がある。
あの頃の私は焦っていたのだろう。仕事の幅を広げないと「自分自身の快不快」よりも「渡辺まおが求められていること」―もっと言及するならば「こんな撮影あるよ。無理だったらあなたじゃなくて他の人に回すけど、どう?」といったものまで追いかけすぎていたのだと思う。
その頑張りが特に何の意味もなさないと気づいたときには、既に後の祭りで、私の終わりが徐々に近づいてきていた。